「前の担当はちゃんとやってくれた」が起きる理由。管理会社の属人化という根深い問題

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先日、管理物件で水漏れが起きて、管理人室の天井から落ちてくる水と4時間ぶっ通しで格闘してきました。

その日の現場対応については[【現場記録】管理人室の天井から水漏れ。初期対応で見落としてはいけないこと]に詳しく書いたんですが、今日はそれとは別の話を書きたいんです。

水漏れ対応をしながら、ふと考えていたことがあって。

管理業界には「属人化」という根深い問題があって、僕自身もその問題の一部だな、と。ハウツーじゃなくて、その日の夜に頭の中でぐるぐる回っていたことを、コラムとして残しておこうと思います。

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設備会社さんから聞いた、ある同業他社の話

水漏れ対応の合間、現場に来てもらった設備会社さんと色々と情報交換していたんですよ。

設備会社さんって、複数の管理会社と付き合っているので、業界の裏側がよく見えている存在なんです。「あそこの会社は最近こうらしい」とか「あのオーナーさんはこういう動き方をしている」とか、業界の温度感が伝わってくる。

その日に教えてもらった話の中で、僕がちょっと考え込んでしまったのが、ある管理委託解除の話でした。

僕が前職で働いていた会社が、長年管理を続けていた物件があったんですね。そこのオーナーさんが、ついに管理委託を解除する判断をしたらしい、と。

「ついに」というのは、僕の中で勝手にそう感じた言葉なんですが。聞いた瞬間、「ああ、そうか」と妙に納得してしまった自分がいました。

なぜ僕が「ついに」と思ったのか。そこには、長年の積み重ねがあるんです。

Aさんという、伝説の担当者

そのオーナーさんを担当していたのは、僕の大先輩にあたるAさんでした。

Aさんはね、僕がこれまでの社会人生活で出会った人間の中で、ナンバーワンかツーくらいに誠実な人だったんですよ。

オーナーさん対応は丁寧で、何かあれば現場にちゃんと行く。入居者さんからの相談にもしっかり向き合うし、判断は早いし、説明は分かりやすい。「管理会社の担当」というポジションで、これ以上ないというくらい完成された人だったと僕は思っています。

オーナーさんからの信頼も厚くて、社内での評価も高かった。Aさんが担当している物件のオーナーさんは、本当に運がいい人だな、と当時の僕も思っていました。

でも、Aさんは数年前に会社を辞めたんです。

ちょうど同じ時期に、僕もその会社を離れました。色々と事情があって、結果的に何人かが続けて辞めることになったタイミングだったんですよ。

Aさんが抜けたあと、そのオーナーさんの担当は別の人に引き継がれました。

「前はちゃんとやってくれたのに」が積み重なった8年

Aさんが辞めてから、もう8年くらい経つんですよ。

その8年の間に、ついにこのオーナーさんは管理委託を解除する判断をした。

設備会社さんから話を聞いた時、僕の頭の中では、その8年間の風景がなんとなく見えた気がしました。

最初は「あれ、前の担当の人だったらこうしてくれたのに」というちょっとした違和感だったと思うんです。それが半年経ち、一年経ち、数年経つうちに、不満として積み重なっていく。

「電話の対応が雑になった」「現場に来てくれなくなった」「説明が足りない」「判断が遅い」。

一つひとつは「まあ仕方ないかな」で済むレベルでも、それが何年も続けば、いつかバケツの水があふれるみたいに、ある日「もういいや」という決断になるんですよ。

管理会社の側からすると、こういうのって辞める瞬間まで気づかないことが多いんです。日々の対応をこなしている間に、オーナーさんの中で何かが少しずつ削れていっている、ということに鈍感になりがちなんですね。

でも、オーナーさんからすると、8年というのは決して短くないんですよ。

「前の担当はちゃんとやってくれた」という言葉の重さ

管理会社にとって、「前の担当はちゃんとやってくれたのに」という言葉は、本来あってはいけないものなんです。

同じ会社の看板を背負っているなら、誰が担当しても同じ品質を出すべき、というのが理屈ではあるんですよ。会社として契約しているわけだから、担当が変わっても契約内容は変わらないはず、なんです。

でも現実には、サービス品質が担当者でガラッと変わってしまう。

これって、オーナーさんからすると「会社を信頼してたのに裏切られた」という感覚になるんですよね。「Aさんに任せていたのに、会社が勝手に別の人を寄越してきた」と。

一方で、会社の側に悪気があるかというと、たぶんないんですよ。

人事のローテーション、退職、異動、担当替え。会社の都合で動かしているだけで、悪意なんてない。「同じ会社の人間なんだから、同じ品質で対応してくれるはずだ」という前提で運営している。

でもその前提が、現場ではあっさり崩れる。

ここのギャップが、僕は管理業界の一番の闇だと思っているんです。

なぜ管理は属人化するのか

じゃあ、なぜこんなに属人化するのか。理由はいくつかあります。

一つ目は、管理業務が「目に見えにくい仕事」だからなんですよ。

巡回の質、入居者対応の丁寧さ、現場での判断、こういうものってマニュアル化しにくいんですよね。例えば先日の水漏れ対応で言うと、「養生シートで水路を作る」「天井ボードに穴を開けて水を逃がす」みたいな現場の判断は、経験を積んで身につくものなんです。これを新人に「マニュアルに書いてあるから読んで」で済ますわけにはいかない。

二つ目は、オーナーさんとの関係性そのものが、個人と個人の間に育つものだから。

「Aさんだから話せる」「Aさんなら任せられる」という信頼は、会社ではなく個人に紐づくんですよ。長年やり取りする中で、お互いの考え方やコミュニケーションのリズムが噛み合っていく。それが「信頼関係」と呼ばれるものの正体です。これは引き継いだ瞬間に再現できるものじゃない。

三つ目は、管理会社の業務量が多すぎて、個人技で回さないと処理しきれない現実があるんです。

一人当たり何十棟も担当して、毎日いろんなトラブルが舞い込んでくる。それを処理しながら、巡回もして、リーシングもして、オーナー報告もする。こうなると、誠実で能力の高い人ほど抱え込む構造になるんですよ。

結果として、できる人にどんどん仕事が集まって、その人の個人技でクオリティが担保される。会社全体ではなく、個人で支える管理になる。

そして、その人が辞めた瞬間、品質が崩壊するんです。

僕自身も、抱え込みすぎてる自覚はある

ここまで偉そうに業界論を書いてきましたが、僕自身も同じ問題を抱えているんですよ。

先日の水漏れの日も、結局4時間ぶっ通しで現場に張り付いて、その日に予定していた他の仕事はほとんどできませんでした。

「現地に行く管理会社」「ちゃんと説明できる管理会社」というのは聞こえはいいんですが、見方を変えれば、僕が個人技で回しているだけ、とも言えるんですよね。

僕が辞めたら、うちの会社の管理品質はどうなるのか。

そう考えると、正直ちょっと寒気がするんです。

8年後、どこかの設備会社さんが他の管理会社の人に「あそこ、昔バルさんって人がいた頃はちゃんとしてたんだけどね」と話している、みたいな未来は、絶対に避けたい。

でも今のままだと、僕はAさんの後を追っていることになる。「あの人がいたから良かった」と語られる側に、僕もなりつつあるという自覚は、正直あるんですよ。

解決の方向性:技術と知見を、全員ができるように

じゃあどうすればいいのか、という話なんですが。

一つは、技術や知見の蓄積を、ちゃんと会社の資産にすることだと思うんです。

「水漏れの初期対応はこう判断する」「クレーム対応はこの順序で動く」「オーナー報告はこの粒度で書く」みたいな現場の知恵を、暗黙知のままにせず、形にして残す。Aさんが持っていた経験を、もし当時きちんとナレッジ化できていたら、後任の人ももう少しマシな対応ができていたかもしれないんですよね。

もう一つは、初期対応のスピードや判断の質を、属人技ではなく仕組みで担保することだと思います。

設備会社さんと話していて改めて思ったんですが、業務の高度化と標準化って、両立できないように見えて、実は両立すべきものなんですよ。誠実な判断ができる人材を育てつつ、その判断ができる人を一人に集中させない。これが課長職として僕がやらなきゃいけない宿題だと思っています。

幸い、うちの会社にも新しいスタッフが入ってきてくれます。

これまで僕が抱え込んでいた業務を、少しずつ振り分けて、組織として品質を出せるようにしていきたい。一人で頑張る管理から、チームで支える管理へ。これは僕個人の責任でもあるし、業界全体の課題でもあるんです。

オーナーさんへ:担当者で選ぶか、会社で選ぶか

最後に、オーナーさんに少し考えてほしいことがあって。

管理会社を選ぶときって、「どの会社か」で選ぶ視点と、「誰が担当か」で選ぶ視点、両方あると思うんですよ。

Aさんのような担当に巡り合えるのは、ある意味ラッキーなんです。誠実で、判断力があって、ちゃんと現場に来てくれる担当者がついている物件は、本当にいい状態です。

でも、その担当者がいつまでもいるとは限らない、という視点も持っておいてほしいんですよね。

担当者は転職するし、異動するし、人事で動かされる。会社の都合で、ある日突然変わることもある。その時に、サービス品質が崩壊しないかどうか。それを見極めるには、「会社としてどういう仕組みで管理しているのか」を聞いてみるのが一番なんです。

属人化していない会社というのは、聞けば分かります。

「ナレッジの蓄積はどうしていますか」「担当が変わった時の引き継ぎはどう設計していますか」「現場対応の判断基準はどう揃えていますか」。こういう質問にちゃんと答えられる会社は、属人化への意識がある会社です。

管理会社の見極め方については[良い管理会社を見極める10の質問|現役社員が教えるチェックリスト]で詳しくまとめているので、よかったら参考にしてください。

本当にいい管理会社というのは、誰が担当しても一定以上の品質を出せる会社のことだと、僕は思うんですよ。

そして、僕も含めて、業界全体がそこを目指していかないといけない。

8年越しに管理委託を解除されたあのオーナーさんの判断は、業界への警鐘だと思います。少なくとも僕は、そう受け止めています。

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この記事を書いた人

不動産業界歴約15年。仲介8年→現在は賃貸管理・リーシングがメイン。古い物件をリフォームで蘇らせて賃料アップを狙うのが一番の生きがい。
管理の現場で「オーナーさん、それ知らないと損してますよ…」な場面に遭遇しすぎて、このブログを始めました。
保有資格
宅建士/二級建築士/賃貸不動産経営管理士/賃貸住宅メンテナンス主任者/消防設備点検資格者/管理業務主任者

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