こんにちは、バルです。
昨日の夜、知り合いのオーナーさんから一本の電話をもらいました。所有している物件の一室で、入居者の方が亡くなられた、と。
僕の会社が管理している物件ではなかったんですが、募集のお手伝いをしていた縁で、状況共有の連絡をもらった形です。
これから対応していくにあたって、いろいろ考えることが出てきました。特殊清掃のこと、相続人のこと、再募集のこと。実務的に整理しないといけないことは山ほどあるんですが、今日書きたいのはそういう対応マニュアルの話じゃありません。
この電話を受けて、僕は2年前の出来事を思い出しました。今回亡くなられた方とはまったく別の話なんですが、うちが管理している別の物件で過去に起きた、ある事件の話です。
そして、今もネット上に消えずに残っている、ひとつの書き込みの話を。
「大島てる」というサイトをご存知ですか?
本題に入る前に、ご存じない方のために少しだけ説明させてください。
「大島てる」というウェブサイトがあります。地図上に「事故物件」のマークが落とされていて、クリックするとその物件で過去に起きた事件・事故・死亡事案などが表示される、という無料の情報サイトです。
運営の建前としては、「不動産業者が表示義務を怠って隠している事故物件情報を、消費者が知れるようにする」というもの。一見すると、社会正義のある仕組みに見えます。
ただし、書き込みは誰でもできて、その情報の真偽はチェックされません。一度書き込まれた情報は、削除依頼を出してもなかなか消えません。
そして、ここからが今日の本題です。
自然死だった一室が、大島てるに載るまで
2年前のうちの管理物件の話に戻ります。
ある一室で、入居者の方が自然死されました。発見は1〜2日と早く、特殊清掃が必要なレベルでもありませんでした。後ほど詳しく説明しますが、国土交通省のガイドライン上、告知義務のない案件です。
ところが、その夜に救急車と警察が出入りしていたのを、隣の部屋の入居者さんが目撃していました。翌日、管理会社であるうちに「何があったんですか」と問い合わせが入りました。
隣の部屋なので、嘘をつくわけにもいきません。「病気でお亡くなりになりました」と事実だけお伝えしました。
その隣人は、その日のうちに大島てるに書き込みをしました。
僕たちは事実関係を整理した上で、削除依頼を出しました。「これは告知義務のない自然死である」「発見も早く、特殊清掃も入っていない」と。
2年経った今も、その書き込みは消えていません。
そもそも、告知義務とは何か
オーナーさんによっては「いやでも、人が亡くなったなら告知しないとダメでしょ」と思うかもしれません。僕も最初は感覚的にそう思っていました。
でも、ちゃんと国がラインを引いてくれているんです。
2021年10月に国土交通省が公表した「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」。これが、今の業界の判断基準になっています。
このガイドラインで何が決まったか、ざっくりまとめます。
告知が不要なケース
- 自然死(老衰、病死など)
- 日常生活の中での不慮の事故死(階段からの転落、入浴中の溺死、誤嚥など)
- 賃貸の場合、上記以外の死や特殊清掃が入った事案でも、概ね3年が経過したもの
- 隣接住戸で起きた事案(事件性が特に高いものを除く)
告知が必要なケース
- 他殺、自死
- 特殊清掃や大規模リフォームが入った死
- 賃貸で概ね3年以内のもの
- 買主・借主から直接問われた場合
ガイドラインの中には、こんな一文があります。
老衰、持病による病死など、いわゆる自然死については、そのような死が居住用不動産について発生することは当然に予想されるものであり、統計においても、自宅における死因割合のうち、老衰や病死による死亡が9割を占める一般的なものである。
そう、人は当たり前のように家で亡くなるんです。むしろ自宅で亡くなる方の9割は自然死。これを全部「事故物件」として扱っていたら、世の中の半分以上の住宅が事故物件になってしまいます。
うちの2年前のケースに当てはめると、自然死・発見1〜2日・特殊清掃なし。3拍子揃って「告知義務なし」です。隣の部屋の話だったとしても、ガイドラインでは原則告知不要に分類されます。
つまり僕たちは、ルール通りに動いただけなんです。
それでも、書き込みは消えません。
大島てるの構造的な問題
ここからが本題です。
最初に断っておくと、大島てる的なサイトが世の中に必要な側面があることは、僕も理解しています。
表示義務を怠る不動産会社やオーナーが、もし仮にいたとして。その人たちが「告知すべき事案」を隠して募集した時に、入居希望者がそれを知る手段として、第三者が運営する情報サイトには一定の意味があると思います。
社会正義のように見える。実際、そういう機能を期待して使っている人も多いはずです。
でも、僕は冷静に考えると、このサイトの構造には大きな問題があると思っています。
構造的問題①:書き込みの真偽が検証されない
誰でも書き込めて、その情報が事実かどうかをチェックする仕組みがありません。うちのケースのように、告知義務のない死までもが「事故物件」として記載されてしまいます。
構造的問題②:告知義務のない死まで載る
国がガイドラインで「告知不要」と明確に線を引いた自然死までもが、隣人の書き込み一発で「事故物件」のラベルを貼られます。これはガイドラインの趣旨を真っ向から無視する運用です。
構造的問題③:削除依頼に応じない
うちが事実関係を説明して削除依頼を出してから、2年経ちます。動いてくれません。間違った情報が訂正されないまま残り続けます。
構造的問題④:管理者が情報を精査する仕組みがない
そもそも、書き込まれた情報が告知義務のあるものか、ないものか。サイト側が判断する体制がないように見えます。書かれたら載る、それだけ。
ちゃんと表示義務を守って募集している管理会社・オーナーにとって、このサイトは「監視ツール」ではなく、もはや「風評被害装置」になっていると、僕は思っています。
僕がこのサイトを「社会悪」だと言い切るのは、運営している人個人を攻撃したいわけじゃありません。仕組みとして、まじめにルールを守っている側が損をする構造になっているからです。
この構造が招くもの──高齢者の入居拒否が加速する
実はこの話、単にうちが迷惑しているという話では終わりません。もっと大きな問題に繋がっています。
想像してみてください。
自然死でも風評被害を受ける可能性があるなら、あなたは高齢の単身者を入居させたいと思いますか?
正直に言うと、二の足を踏むはずです。「ちゃんと告知義務を守って募集すれば大丈夫」と言われても、実際には告知義務のない死までネットに晒されてしまう現実があるなら、リスクを取りたくないと考えるのが普通です。
実はこの問題、国土交通省のガイドラインの中でもはっきり指摘されています。
不動産取引に際し、借主に対し、当該不動産において過去に生じた人の死に関する事案の全てを告げる対応を行うことによって、賃貸住宅の入居の場面において、貸主が、入居者が亡くなった場合、亡くなった理由の如何を問わずその事実を告知対象にしなければならないと思い、特に単身高齢者の入居を敬遠する傾向があるとの指摘もある。
国もわかっているんです。「死を全部告知扱いにしてしまうと、高齢者が住む場所を失う」と。
だから、ガイドラインで「自然死は告知しなくていい」とラインを引きました。これは、人が当たり前に老いて当たり前に亡くなる時代に、賃貸業界がついていくための制度設計です。
でも、大島てる的な仕組みが現場でこのラインを破壊してしまうと、結局オーナーさんは高齢者を受け入れにくくなります。国がいくらガイドラインを整備しても、現場の感覚がついていかなければ意味がありません。
これから日本はますます高齢化していきます。単身高齢者の住居確保は、すでに社会問題になっています。
人はいずれ亡くなります。それがたまたま賃貸物件の中だっただけの話なんです。それを「事故」扱いして晒し続ける文化は、結果として、一番住む場所を必要としている人たちから住む場所を奪っていく。
僕はそのことに、ちゃんと怒りたいんです。
それでも、僕たちにできること
愚痴で終わらせるつもりはありません。
オーナーさんと、同じ業界で働く管理会社の方に向けて、僕が今思っていることを書きます。
1. 表示義務はちゃんと守る
これは前提です。告知義務がある事案は、隠さない、ごまかさない。これをやらないと、業界全体の信頼が落ちます。
2. ガイドラインを根拠に、過剰な反応を避ける
国がラインを引いてくれています。自然死で発見が早い案件は、告知不要です。そこをブレずに運用すること。「念のため告知しておくか」と過剰に反応すると、結果として高齢者の入居拒否を加速させます。
3. 事実関係の記録を残しておく
削除依頼が通らなくても、いつ、どういう状況で、何を伝えたか。記録を残しておけば、将来何かあった時に「ガイドラインに沿って対応した」と説明できます。
4. 業界として、共通認識を育てる
「告知義務のラインを守れば後ろ指は指されない」という空気を、業界の中で育てていくしかありません。一社だけ厳密にやっても、他社が過剰反応していたら基準が揃いません。
5年、10年かかるかもしれませんが、ここはちゃんと変えていきたいところです。
まとめ
昨日のオーナーさんからの電話で、2年前にうちで起きた出来事を思い出しました。あの時、自然死で告知義務のなかった一室が、大島てるに載って、今も消えないまま残っている。
でもこの話は、うち一社の話じゃありません。
高齢化が進む日本で、賃貸業界がこれからどうあるべきか。人が亡くなるという当たり前のことを、業界がどう受け止めるか。そういう、もっと大きな話に繋がっています。
国がガイドラインを整備してくれました。あとは、現場の僕たちがそれをちゃんと運用していくこと。過剰に反応しないこと。冷静にルール通りに動くこと。
そして、間違った情報が広がる仕組みに対しては、ちゃんと声を上げていくこと。
僕は、この国の賃貸業界が、人の死をもう少しだけ普通のこととして扱える場所であってほしいと思っています。
それが、巡り巡って、住む場所を必要としている人たちを助けることになるはずだから。
おまけ:あなたの管理会社、ちゃんとガイドラインを運用していますか?
今回の記事で書いたような「告知義務のラインを冷静に守る」「過剰に反応しない」「事実関係をちゃんと記録に残す」──これって、当たり前のようでいて、実はちゃんとできている管理会社って意外と少ないんです。
僕は管理会社の中の人間として、いろんな現場を見てきました。そして「この管理会社、本当に大丈夫かな?」とオーナーさん側から見極めるためのチェックポイントを、10個の質問にまとめたnoteを書きました。
採点シート付きで、自分の管理会社に質問を投げてみて、その回答を点数化できる仕組みになっています。今の管理会社を続けるべきか、変えるべきか。判断材料にしてもらえる内容です。
👉 管理会社を見極める10の質問|現役社員が本音で解説する「点数化」採点シート付き完全ガイド
事故物件対応のような、いざという時の管理会社の真価が問われる場面で慌てないために。今のうちに、見極めておいてください。