大阪市内の賃貸市場、供給過多と言われて久しいんですよ。
新築マンションは毎年ドカドカ建っているし、分譲マンションが賃貸に出てくるケースも増えている。近所を歩いていたら、どこ行ってもクレーンとシート、という感じですよね。
供給は、明らかに増えているんです。
にもかかわらず、毎年3月〜4月の仲介繁忙期になると、不動産屋さんに行くと店員さんがこう言うんですよ。
「3月末入居ですか?もう物件が全然ないんですよ…」
いやいや、待ってくださいと。あれだけクレーン立ってましたよねと。
……これ、なぜだと思いますか?
実は僕、管理会社で働いて10年以上経つんですけど、未だにこの現象を完全には説明できていません。
正直に言うと、毎年3月になるたびに「今年もないのか……」と首をかしげています。業界の人間のくせに何言ってんだと言われそうですが、本当にそうなんですよ。
ただ、「わからない」で終わらせるのもアレなので、今日は現役の管理会社社員として持っている仮説を、検証してみようと思います。
まず事実確認:大阪市内は本当に供給過多なのか
まずここ、数字で押さえておきますね。
僕が最近独自に分析した、大阪市某区の新築データです。
- 直近5年のピークは2024年
- 新築17棟、延床約56,000平米の供給
- 2025年も約2万平米の供給があり、増加傾向は継続
- レインズの成約件数も、年平均で10%ぐらい増え続けている
供給、明らかに増えてます。
歩いていて「どこ行ってもクレーン」と感じるのは、気のせいじゃないんですよ。背景には、団塊世代から現役世代への代替わりや、相続税対策で駐車場だった土地がマンションに変わっているケースなど、色々あります。
要するに、少なくとも大阪市内の住宅供給は、5年前と今では別物なんですよね。
ところが3〜4月になると物件がない
で、供給がこれだけ増えているのに、なぜか毎年3月〜4月の繁忙期になると、現場では「物件がない」と言われるんです。
僕の感覚だけじゃないはずです。オーナーさんご自身も、引っ越しの経験があれば、「3月に部屋探ししたらスカスカだった」という経験、1回や2回あるんじゃないでしょうか。
いや、スカスカって言い方はアレですね。こっちが「いいな」と思う物件から順に、光の速さで消えていく感じです。
「これ気に入りました」「あっ今日の午前中に申込入りました」「これは?」「これも昨日」「じゃあこれは?」「これは……ちょっと条件が……」みたいなやりとり、誰もが経験していると思います。
供給過多のはずなのに、この現象。
何か変じゃないですか。
仮説を検証してみる
さて、ここからは僕の仮説を順番に検証していきます。
「現役社員が本音で」とか言っておきながら、仮説の検証を読者と一緒にやるという、ちょっとズルい展開です。でも本当にわからないのでお付き合いください。
仮説①:地方から大阪への人口集約が爆進している?
最近、地方拠点を畳んで大阪や東京に集約する企業の流れが、確かにあるんですよ。
リモートワークの定着で「地方にいてもいい」という流れもあった一方で、ここ数年は「やっぱり本社に集約したい」という揺り戻しが来ている感じがします。大阪は西日本の拠点として機能している都市なので、その波をそれなりに受けているはずなんです。
ただし、です。
大阪の賃貸需要が、5年で4倍になったとは、さすがに思えないんですよ。
新築供給だけでなく、既存物件もたくさんあるわけで、その全体量に対して「3〜4月だけ足りなくなるほどの需要爆増」が起きているかというと、そこまでじゃないはずなんです。
だから人口集約は一因ではあるけど、それだけでは説明しきれない。
仮説②:ワンルームから1DK・1LDK化で”使える部屋”が実質減っている?
これ、結構有力な仮説だと思っています。
ここ数年、新築の間取りって、ワンルーム・1Kから1DK・1LDKにシフトしているんですよ。建築費の高騰で戸数を絞らざるを得ないとか、差別化のためとか、色々理由があります。
問題は、その1DK・1LDKの家賃が、ワンルームだった時代より上がっていることです。
予算10万円以下で探している人にとって、「選べる部屋の総数」は、供給数ほどは増えていない可能性があります。部屋は増えたけど、「自分の予算で借りられる部屋」は増えていない——という現象が起きているかもしれません。
(この話は別記事でもう少し掘り下げる予定なので、今日はここまで)
仮説③:家賃帯の上昇で、予算内の物件が絞られている?
仮説②とかぶるんですけど、もう少し広く捉える話です。
材料費の高騰、土地代の高騰、人件費の高騰。ここ5年で建築コストは爆上がりしています。その結果、新築の家賃設定が、5年前より明らかに高いんです。
つまり、供給は増えているんだけど、増えているのは「高い物件」なんですよ。
「どこでもいいから安く住みたい」と思っている入居者にとっては、選択肢はむしろ減っているかもしれません。供給の中身を見ないと、単に棟数が増えたことだけでは市場の厚みは判断できない、ということですね。
仮説④:需要と供給のタイミングがズレている
これも無視できません。
一応、新築マンションも繁忙期である3月・9月に完成を合わせてくる傾向はあるんですよ。業界全体が「繁忙期に埋めたい」と思っているので、施工スケジュールもそこに合わせてくる会社が多いです。
ただ、全部が全部その通りにはいかないんですよね。工期の関係で5月完成になったり、7月ズレ込みになったりする物件もあります。さらに言うと、一気に大量の新築が3月に揃うと、今度は新築同士で食い合いが起きて、繁忙期を逃したら残ってしまう物件も出てきます。
一方、賃貸需要は3〜4月に集中します。新入社員、新大学生、転勤族……この時期に動く人が圧倒的に多い。
狙って繁忙期に合わせてもなお、「需要のピーク」と「供給のピーク」がピタリとは一致しない。これが現実です。夏場に供給された物件は、その頃には借り手が少なくて、今度は空室が増える——というサイクルになっている可能性があります。
仮説⑤:既存入居者の「引っ越し控え」で、中古物件の空きが出ていない?
これ、今年の繁忙期で僕が特に強く感じたことなんですけど。
うちの管理物件で、5万円台の初めての一人暮らし向け物件からの退去が、例年より明らかに少なかったんですよ。
最初は「うちの管理体制が良いから長く住んでくれてるんや!」と喜びかけたんですけど(まあそれも一因だと信じたいですが)、冷静に考えたら、たぶんそれだけじゃないんですよね。
周辺の家賃が全体的に上がっているから、住み替えようにも予算が合わない。
それで、今の部屋から動けない入居者さんが増えているんじゃないか、という仮説です。
実際、うちではこういう価格帯の物件に空きが出ると、前の家賃から5,000円近く上げて募集しても、普通に決まる状態になっています。市場が上がっているから、入居者さん側も相場を受け入れて契約してくれるんです。
つまり何が起きているかというと、
- 既存の入居者は、家賃が上がる先に引っ越せないから動かない
- 空きが出ないから、市場に中古物件が回ってこない
- 繁忙期に探している人の前に、そもそも選択肢が出てこない
これ、「既存物件の流動性が下がっている」状態なんですよ。
新築が増えても、その新築は家賃が高くて手が届かない層がいて、その層が住んでいる築古の物件も空きが出ない。結果、3〜4月に探している普通の予算の入居者さんの目の前には、物件がない、という状況が生まれているんじゃないかと。
これ、仮説の中でもかなり手応えを感じている部分です。
結論:現役社員の僕でも、完全には説明できません
……ここまで仮説を並べてきて、身も蓋もないことを言うんですけど。
結局のところ、3〜4月の物件不足の完全な原因は、業界にいる僕にもわからないです。
おそらく、仮説①〜⑤のすべてが複合的に絡み合って、あの現象を作り出しているんだと思います。人口集約も、間取り変化も、家賃上昇も、供給タイミングのズレも、既存入居者の引っ越し控えも、ぜんぶ少しずつ効いている。でも「これが決定打です」と言える要因は、正直見つけられていません。
業界に長くいる先輩に聞いても、「まあ、毎年そうやな」で終わるんですよ。みんなこの現象を受け入れているだけで、誰も正確には説明できていない気がします。
これがリアルな業界の状況です。「なんとなくそうなる」ものとして、皆が対応しているというのが、僕の見ている景色です。
だったらこの記事書かなくていいじゃん、と思われそうですが、ちょっと待ってください。ここからが本題です。
じゃあ、オーナーさんはどうすればいいのか
原因がはっきり分からなくても、この現象を前提にした戦略は立てられます。
むしろ、この3〜4月の物件不足現象って、オーナーさんにとってはチャンスの時期でもあるんですよ。
繁忙期(2〜4月)は強気の条件設定ができる
「物件がない」時期は、入居者さん側が急いでいる時期です。
つまり、値下げしなくても決まる可能性が高いということ。
- フリーレント2ヶ月と言われたら1ヶ月に減らす
- 家賃交渉されても、強気で応じない
- 広告料を大盤振る舞いしなくても、お客さんが付いてくる
こういう判断が、この時期はできるんです。逆に言うと、この時期に値下げして決めるのは、オーナーさんの立場からするとかなりもったいない。
それから、仮説⑤で書いた話ともつながるんですけど、空きが出たら家賃を上げて募集するという選択肢も、今はかなり現実的です。
特に築古で5〜6万円台の物件は、周辺相場が上がってきているので、以前の賃料のままで募集するとむしろ割安物件として一瞬で決まってしまうことも。適正な相場を見極めて、必要なら堂々と家賃を上げる。この判断を一緒にやってくれる管理会社かどうか、大きいですよ。
閑散期(6月〜年末)は値下げ競争に巻き込まれやすい
逆に、6月以降の閑散期は、全国の物件が「決まらない」状態になります。
この時期に空室を埋めにいこうとすると、値下げ合戦に巻き込まれて、本来取れるはずだった家賃を失うことになりかねません。
だから、空室をいつ埋めるかのタイミング設計が、すごく大事になってくるんですよ。
たとえば12月に退去予告が出たら、「無理に1月に決めようとせず、2月に向けて募集を仕込む」という判断ができる管理会社の方が、長期的にはオーナーさんの利益を守ってくれます。
市況を見ている管理会社は「今どっちの時期か」を把握しています
というわけで、ここで話が本筋に戻ります。
「今、繁忙期か閑散期か」を踏まえた戦略を出してくれる管理会社は、やっぱり市況を見ているんですよ。
「今2月だから、強気の条件で1ヶ月だけ待ちましょう」 「今7月だから、ちょっと条件を緩めて早めに埋めた方がいいですね」 「12月に退去ですけど、3月のシーズンを狙って、フリーレントを付けて募集しませんか」 「この物件、今の相場なら5,000円上げても決まりますよ」
こういう月ごとの、そして相場の動きを踏まえた戦略を提案してくれる管理会社は、今日の「謎」を理解したうえで、それを武器に変えているということです。
逆に、年がら年中同じ条件で募集をかけて、決まらなければ広告料を上げて、それでもダメなら家賃を下げる……みたいな単調な動きしかしない管理会社は、業界の季節性を全然活かせていない。
まとめ:謎は謎のまま、でも戦い方はある
今日はちょっと変わった記事になりました。
「供給過多のはずなのに3〜4月は物件がない」という業界の謎を、現役社員の僕でも説明しきれないまま投げかけました。
でも、オーナーさんにお伝えしたいのは、原因がわからなくても、現象を前提にした戦略は立てられるということです。
- 繁忙期は強気で、必要なら家賃を上げて募集する
- 閑散期は無理せず
- 退去予告が出たら、どの月に向けて募集を仕込むかを設計する
これを一緒に考えてくれる管理会社かどうか。これ、結構大きな差になりますよ。
今度、管理会社の担当者さんに聞いてみてください。
「今って繁忙期ですか? 閑散期ですか?」 「うちの物件、いつ募集を始めるのがベストですか?」 「今の相場なら、家賃はいくらで募集できますか?」
ここで月ごとの相場観を持って話してくれる人なら、信頼できる管理会社です。
「……え? まあ、決まる時は決まりますし……」みたいに曖昧な答えが返ってきたら、ちょっと心配ですね。
ちなみに、今回の「3〜4月物件不足の謎」、皆さんはどう思いますか?
オーナーさんも、入居者として、あるいはオーナーとして、この現象を肌で感じた経験があるはずです。「うちの地域はこうだった」「こういう理由じゃないか」という肌感覚、もしあればぜひ教えてください。
業界の内側にいる僕もまだ答えを持っていない問いなので、一緒に考えていけたら嬉しいです。
来年の繁忙期も、引き続き観察していきますね。
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