「敷礼ゼロ・AD3ヶ月」のファンド系物件を見て焦らないで──個人オーナーが札束合戦に巻き込まれない戦い方

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こんにちは、バルです。

最近、新築マンションの募集図面を見ていて「え?」と二度見することが増えました。

敷金ゼロ、礼金ゼロ、フリーレント2ヶ月、広告料3ヶ月。家賃8万円の部屋なら、入居者さんは初期費用ほぼゼロで入れて、さらに仲介業者には24万円の広告料が支払われる計算です。

……これ見て、「うちの物件もこのくらいやらないとダメなんかな」と焦ってるオーナーさん、ちょっと待ってください。

その戦い方、個人オーナーさんが真似するもんじゃないんですよ。

前回の記事で「大阪の広告料相場は1.5〜2ヶ月」とお伝えしました。じゃあなんで3ヶ月みたいな物件があるの?って話を、今日はちょっと踏み込んでしてみます。

業界のわりとどす黒い部分の話になるので、覚悟して読んでくださいね。

目次

そもそも「敷礼ゼロ・AD3ヶ月」って、誰がやってるの?

結論から言うと、こういう募集をかけているのはほぼファンド系の1棟もの投資用物件です。

個人オーナーさんが所有する1棟アパートや区分所有のマンションとは、まったく別のルールで動いています。

ファンド系オーナーが何を最重要視しているかと言うと、ズバリ稼働率です。1棟まるごと投資用として建てられた物件は、ファンドの収益モデル上、満室稼働で回ることが前提で収支が組まれています。空室1ヶ月の機会損失を「広告料で埋める」という発想が、ごく自然に成り立つんです。

しかも家賃は絶対に下げません。これ、大事なポイントです。

なんで下げないかと言うと、家賃を一度下げると物件全体の評価(利回り・資産価値)に響くからなんです。ファンドにとって家賃は物件価格そのもの。だから、表面家賃は死守した上で、初期費用の圧縮とADの上積みで調整する——こういう発想で募集条件が組まれています。

「入居者さんの初期負担ゼロ、仲介業者への報酬マシマシ」で、とにかく短期で決めに行く。これがファンド系の基本戦略です。

業者間サイトやファックスで流れてくる募集を見ると、僕は一発で「あ、ここファンド系やな」とわかります。条件の組み方に独特のクセがあるんですよ。

大阪という市場が、札束合戦を加速させている

ここで大阪の市場環境の話を少し挟ませてください。

大阪はとくにですが、市場のニーズよりも供給のほうが多い状態がずっと続いています。供給過多なんです。

しかも厄介なのが、似たような間取りが同時期に一気に在庫として増えるという動きがあること。新築マンションが建つエリアには偏りがあって、需要のあるエリアに複数のデベロッパーが、ほぼ同時に物件を建てるんです。竣工時期もだいたい揃う。結果として、同じエリア・同じ間取り・同じ家賃帯の新築マンションが、一斉に募集を開始する——という状況が普通に起きます。

こうなると何が始まるか。

隣同士で札束の殴り合いが始まるんですよ。

「うちはAD3ヶ月出します」「じゃあうちはAD3ヶ月プラスフリーレント2ヶ月」「うちはさらに……」みたいな、完全に体力勝負の募集合戦。

僕が現場で見ていて、一番ぞっとした募集があります。

ちょっと余談なんですけど、不動産業界って今でもバリバリのファックス文化なんですよ。「令和の今どき?」って思いますよね。僕も思います。でも本当にそうで、毎日のように仲介業者や家主側の管理会社から、物件の募集広告がファックスでバンバン送られてくるんです。業者間サイトももちろん使うんですけど、広告の押し込みはファックスが主戦場、みたいな空気が今も残っています。

で、そのファックスの話です。

家賃が相場より1万円ほど高く設定されていて、当然なかなか決まらない。でもオーナー(ファンド)は絶対に家賃を下げない。その代わり、広告料3ヶ月+仲介業者への商品券プレゼントという条件で募集をかけていたんです。

最初は「広告料3ヶ月+商品券数万円」でした。それでも決まらないから、商品券の額を少しずつ上げていく。毎週のように同じ物件のファックス広告が送られてきて、そのたびに商品券の金額が上がっていくんですよ。

社員同士で「また来たで、これ」「今度はこんだけ積んでんの?えぐいなぁ」「これあと何ヶ月続けんの?」みたいに苦笑いしながら話してたのを覚えています。

見ていて、正直ちょっと怖かったです。

商品券でADを払う、という裏技の正体

ここからは、完全に業界の裏側の話をします。

ちなみに、なんで「現金」じゃなくて「商品券」なんでしょうか?

「広告料を3ヶ月出す」と言うなら、普通に現金で振り込めばいいじゃないですか。わざわざ商品券にする意味が、普通の感覚だとわからないと思うんですよ。

これには、ちょっとしたカラクリがあるんです。

広告料を現金で払うと、当然ながら仲介業者の会社の売上として計上されます。その後、担当した営業マンには歩合や賞与という形で一部が還元される、という流れですね。ごく普通の商取引です。

一方で、広告料を商品券で払うと、会社によっては営業マン個人の懐に直接入るケースがあるんです。これは仲介業者の会社側のスタンスや経理処理の仕方にもよるので一概には言えませんが、少なくとも「商品券でADを出せますよ」とPRする側の意図としては、営業マン個人への直接的な報酬として動いてほしい、という明確な狙いがあります。

つまり何が起きているかと言うと。

会社としての客付け判断じゃなくて、営業マン個人のインセンティブで物件を優先紹介させる構造を作っているんですよ。

営業マンからしたら、同じ1件決めるなら、会社経由で歩合として返ってくるAD より、自分のポケットに直接入る商品券のほうが嬉しいに決まってる。だから、商品券付きの物件を優先的にお客さんに紹介するようになる。

……これ、健全な商売と言えるのかなぁ、と僕はちょっと思ってしまうんですよね。

もちろん、仲介業者の側も会社としてこれを容認している場合と、個別の営業マンの暴走みたいな形になっている場合があって、一概に「全員悪」みたいな話じゃないです。ただ、そういう構造を前提に募集条件を組むファンド側の発想が、僕はあんまり好きじゃないんですよ。

ここから先は、僕個人の意見です

ここまで業界構造の話をしてきましたが、ここからはバル個人の本音を書かせてください。

聞き流してもらって全然かまわないです。

僕が札束合戦を見ていて一番違和感があるのは、本来お金をかけるべきところに、ちゃんとお金をかけていないということなんですよ。

設備、内装、清掃、管理品質——入居者さんが実際に暮らすときの満足度に直結する部分。ここに投資して物件を育てていくのが、本来の賃貸経営だと僕は思っています。

でもファンド系の募集を見ていると、新築で設備は最新、見た目もキレイ。差別化の余地があんまりないから、結局「ADを積む」ことでしか勝負できなくなっている。それで札束合戦になって、みんなで疲弊していく。

これって、政治の世界でよく言われるバラマキ政策と同じ構造だと僕は思うんですよ。根本問題を解決せずに、金の力で何とかする。その場しのぎで稼働率は作れるかもしれないけど、物件そのものの価値が上がってるかと言うと、何も上がってない。

もうひとつ、この札束合戦がアカンと思う理由があって。

ファンド系が広告料を積み上げる →仲介業者はそっちに流れる →普通の個人オーナーの物件が後回しになる →個人オーナーも焦ってADを上げる →市場全体のADラインが上がる →でも家賃は上がらないから、オーナーの手残りは減る

この悪循環、誰も幸せにならないんですよ。ファンドは稼働率を作って満足してるかもしれませんが、個人オーナーさんはじわじわ搾り取られて、仲介業者はADと商品券に振り回されて、入居者さんは初期費用ゼロに釣られて物件の中身を見なくなる。

一番悔しいのは、ちゃんと設備投資して、長期で物件を大切にしてる個人オーナーさんが馬鹿を見る構造になりかねないこと。これがね、僕は現場で見てて一番嫌なんですよ。

個人オーナーとファンドは、時間軸が全然違う

少しトーンを戻して、冷静に構造の話をします。

個人オーナーさんが、この札束合戦に巻き込まれちゃいけない一番の理由は、時間軸の違いです。

個人オーナーさんの多くは、数十年単位で物件を持ち続ける前提で賃貸経営をしています。相続で引き継いだ物件、老後の収入源として建てた物件、子どもに残したい物件——理由はいろいろですが、時間軸が長い

一方で、ファンドの運用期間は短くて5年、長くても10年くらい。出口戦略(売却)が前提で、その期間の稼働率さえ作ればゴールなんです。

この「5年で出口」と「30年で安定運営」では、そもそも最適戦略が違って当たり前なんですよ。

ファンドにとっては、AD3ヶ月・商品券ナンボで短期で満室を作るのが最適解。でも個人オーナーさんにとっては、設備を育てて、入居者さんに長く住んでもらって、空室率を下げていくのが最適解です。

違う土俵で戦っている相手の戦術を真似しても、勝てません。

これは負け惜しみでも綺麗事でもなく、純粋に経営戦略の話です。

でも、例外的に広告料を上積みすべき局面もあります

ここまで「札束合戦に巻き込まれないで」と書いてきましたが、個人オーナーさんでも、一時的にADを少し上積みするのが合理的な局面はあります。フェアのために書いておきます。

実は僕自身、タワーマンションの一室の募集を任されたときに、ADを少し上積みして早々に決め切った経験があります。

背景を説明すると、新築のタワーマンションで、収益目的で購入したオーナーさんたちがこぞって賃貸に出したんですよ。結果、同じマンション内で賃貸物件が同時に10室、20室と出ることになった。間取りも家賃帯もほぼ同じ。

こうなると、待っていてもうちの部屋だけ埋もれるのが目に見えていました。

だから僕は、ADを相場より少し上積みして、仲介業者に「この物件を先に紹介してください」と動いてもらえる状態を作った。結果、繁忙期の波にも乗って、比較的早いタイミングで決めることができました。

これを「札束合戦」と呼ぶかどうかは、ちょっと微妙なところです。僕の感覚としては、必要な局面で必要なだけADを足した、という戦術的な判断です。相場を無視してAD3ヶ月+商品券を積み続ける殴り合いとは、次元の違う話だと思っています。

ポイントは3つあります。

ひとつ、同じ建物内で大量の競合が一気に発生するという特殊な状況だったこと。ふたつ、上積みは相場プラスαの範囲に収めたこと。みっつ、短期決戦と割り切って判断したこと。この3つの条件が揃ったから、ADアップが正解になりました。

通常の個人オーナーさんの1棟アパートや区分所有マンションで、AD3ヶ月とかを平常運転で出し続けるのは、まったく別の話です。そこは絶対に混同しないでほしいんですよ。

個人オーナーが札束合戦に巻き込まれない4つの戦い方

じゃあ、個人オーナーさんは具体的にどう戦えばいいのか。4つに整理します。

①広告料は相場ライン(1.5〜2ヶ月)で、ちゃんと出す

ファンド系の3ヶ月に引きずられる必要はまったくありません。でも、ゼロや0.5ヶ月だと仲介業者から後回しにされる——これは前回の記事で書いた通りです。

相場ラインをちゃんと押さえる。それだけで十分です。

②広告料を上げる前に、設備・写真・清掃に投資する

これが一番大事です。

ADを1ヶ月上げるより、エアコンを1台新調するほうが決まりやすくなるケースは本当によくあります。水回りが古ければ徹底クリーニング、募集写真が暗ければ撮り直す。こういう「目に見える改善」は、入居者さんの内見時の印象を直接変えます。

ファンド系は新築同士の勝負だから、設備投資の余地が最初からない。でも、中古の物件を持っている個人オーナーさんには、設備投資で物件の価値を上げる余白がまだたくさんあるんです。ここが個人オーナーさんの一番の強みだと、僕は思っています。

③冷静に相場を見極められる管理会社を選ぶ

札束合戦の空気に飲まれず、「この物件にはこのくらいのADが適正ですよ」と冷静に判断できる管理会社を選んでください。

「最近ファンド系が3ヶ月出してるから、うちも3ヶ月出しましょう」みたいに、相場を踏まえずに安易にADアップを提案してくる管理会社は、ちょっと警戒したほうがいいです。オーナーさんのお金を使って自分たちの成約数字を作りたいだけ、という可能性があります。

④時間軸を長く持つ

ファンドは5年で出口かもしれないけど、個人オーナーさんは30年・40年の世界です。

短期の稼働率で一喜一憂せずに、「10年後、20年後にこの物件がどういう状態になっているか」という視点で判断する。これがたぶん、個人オーナーさんにとって一番の防御策です。

あなたは、あなたの土俵で戦っていい

長くなっちゃいましたね。最後に、一番お伝えしたいことを書きます。

「敷礼ゼロ・AD3ヶ月・商品券プレゼント」みたいな募集を見ると、つい「自分もこれくらいやらないと時代遅れなのかな」と焦ってしまう気持ちは、本当によくわかります。僕も現場でそういう募集を見るたびに、業界全体がおかしな方向に引っ張られている感じがして、ちょっとモヤモヤします。

でもね、あなたはあなたの土俵で戦っていいんです

ファンド系のやり方は、ファンドのルールで最適化された戦略であって、個人オーナーさんにとっての正解じゃありません。時間軸も、資金力も、出口戦略も、全部違う。違う相手の戦術を真似しても、消耗するだけです。

地味でも、足元を固めて、設備にちゃんとお金をかけて、相場ラインのADでしっかり募集する。長い目で見たら、これが一番強いと、僕は現場で15年見てきて思います。

札束合戦は札束合戦でやってもらって、個人オーナーさんは個人オーナーさんの戦い方で、長く健全に物件を育てていきましょう。それが結果として、入居者さんにとっても、オーナーさんにとっても、街全体にとっても、一番いい未来につながるはずだと僕は信じています。

僕は地味でも足元を固める派です。たぶん、このブログを読んでくださっているオーナーさんも、そういうタイプの方が多いんじゃないでしょうか。

広告料の基本的な話は「広告料(AD)いくら出してますか?」の記事で詳しく書いているので、まだ読んでいない方はあわせて見てみてくださいね。

それでは、また次の記事で。 バル


オーナーさんに一つ質問です。今の管理会社、感覚で「まあいいかな」と思っていませんか?

僕がnoteで書いた有料記事では、管理会社を10項目・40点満点で採点できる設計にしています。採点スプレッドシートも特典でつけているので、読み終わった後すぐ手を動かせます。

「感覚じゃなくて数字で判断したい」オーナーさんに、特に読んでほしい内容です。

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この記事を書いた人

不動産業界歴約15年。仲介8年→現在は賃貸管理・リーシングがメイン。古い物件をリフォームで蘇らせて賃料アップを狙うのが一番の生きがい。
管理の現場で「オーナーさん、それ知らないと損してますよ…」な場面に遭遇しすぎて、このブログを始めました。
保有資格
宅建士/二級建築士/賃貸不動産経営管理士/賃貸住宅メンテナンス主任者/消防設備点検資格者/管理業務主任者

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